「ねえ、あの人、ほんと細かいんやけど。私のするコトいちいち見よるし。うっとーしーい!」
カウンター越しにA子(ヘルパー)のいつもの愚痴が飛んでくる。
私はお昼ご飯の手を止めて、彼女の訴えを頷きながら聞く。彼女は私に答えなど求めていない、私の前で吐き出したらまたユニットのフロアーに戻っていく。
こういうことは施設介護の現場ではよくあるシーンだった。
数十名の高齢者が入居する施設では、ヘルパーもそれなりの数で対応する。さらにそこがユニットケアを唱える施設であれば職員は固定され、決まったメンバーで仕事をすると良くも悪くもコンフリクト(あつれき)が生まれる。
小さな組織であっても望ましくないカースト(階層)や派閥ができてしまい、関係性が悪化するとやがてはヘルパーの離職に繋がるリスクが高まる。
【介護従事者は低収入である】ことが多い、という話を世間でことあるごとに耳にするが、退職理由の最たるは収入の多寡ではない。
【人間関係】なのだ。
とはいえ、その施設の職員がみな、お互いを責めなじるといったギスギスした関係性のなかで働いている訳でもなかった。共に働く誰かに感謝の思いを抱いている職員も当然ながらいた。
「リーダーがひと通り見てくれたみたいで、私がワケの分からない部分を代わりに埋めてくれてたのでチョー助かりましたー。」
イベント計画で慣れない稟議書作成を任されたB美から、所属するユニットのリーダーに助けられた喜びを聞いた。B美によると、そのリーダーはいつもそっと助け船を出してくれるらしい。
ここでタネ明かしをするが、実はA子とB美がそれぞれ語った対象は同一人物である。
A子は彼を【神経質で、いつも監視されている】ように感じている。
B美は彼を【細部にも気が付き、見守られている】ように感じている。
同じ対象人物であっても、受け手の視点によりアセスメントされた結果、こうして異なった人物像が描きだされてしまうのだ。
ところで、皆さんは【リフレーミング】という言葉をご存じであろうか。
これはカウンセリング技術のひとつであるが、専門的な難しいことと捉えずにぜひ皆さんの普段の生活のなかで活用してもらいたい、いわば素敵な魔法である。
●優柔不断 → 慎重に最良を探す
●消極的 → 周りを大切にする
●きつい感じ → 凛とした
●慌て者 → 行動が機敏
●いい加減 → おおらか
●陰気 → 冷静
●えらそう → 堂々とした
●しつこい → 粘り強い
●神経質 → ていねい
●強引な → 信念がある
少し挙げてみたが、どうだろうか。ある事実を【自分がポジティブに受け止める】ために、今までの独自の視点(フレーム)とは違った視点で物事を捉え、その解釈を変えてみること。これをリフレーミングという。
平たく言えば、サングラスをかけ替えて視界に変化を与えるようなものだ。かけている眼鏡によっては月が暗い灰色に見えたり、鮮やかなオレンジに見えたりするだろう。
かの施設においては、A子がB美のように、自身の上司であるユニットリーダーから受ける印象をポジティブなものに捉えられていれば、もしかしたらA子自身がもっと気持ちよく前向きに日々の仕事に取り組めていたかもしれない。
そうであれば、私がお昼ご飯をのんびりと食べられる日が少しは増えていたことだろう。
周り(視界)を変えたいと願うなら、自分(視点)を変えることである。